ムジナモものがたり

宝蔵寺沼のムジナモがたどった道のり

1.発見から国天然記念物指定後のムジナモ消滅まで 

羽生はにゅうのムジナモは1921ねん三田ケ谷みたがや沼地ぬまち速水義憲はやみよしのり発見はっけんしました。学校がっこう先生せんせいとして、周辺しゅうへん植物しょくぶつをよくっている必要ひつようがあると調しらべていたときつけたそうです。

ひろ範囲はんいにムジナモが生育せいいくしていることを確認かくにんしましたが、1960年代ねんだいになるととして稲作いなさくおこなわれていた水田すいでんでは除草剤じょそうざい影響えいきょうで、またほりのムジナモは魚捕うおとりの影響えいきょう絶滅ぜつめつ一途いっと辿たどっている状況じょうきょうであるとしるされています。

1966ねんには「宝蔵寺沼ほうぞうじぬまムジナモ自生地じせいち」は国内こくない最後さいごのムジナモ自生地じせいちとして 国天然記念物くにてんねんきねんぶつ指定していされました。

ところが、指定してい直後ちょくご大型台風おおがたたいふうにムジナモは流出りゅうしゅつしてしまい、翌年よくねんには自然状態しぜんじょうたいのムジナモの生育せいいくはみられなくなってしまったのです。

ここから、ムジナモが生育せいいくできる環境かんきょうもどすための半世紀はんせいき以上にもおよぶながみがはじまりました。

2.第1回緊急調査と救出したムジナモの自生復活へ向けた取り組み 

1976ねんから羽生市はにゅうしによって実施じっしされた緊急調査きんきゅうちょうさにはおおくの埼玉大学さいたまだいがく教員きょういんかかわりました。水面すいめん被膜ひまく高濃度こうのうどふくまれるマンガンイオンの影響えいきょうや、植食性しょくしょくせい水生動物すいせいどうぶつ対策たいさくなどが調査ちょうさ検討けんとうされました。また大規模だいきぼボーリング調査ぼーりんぐちょうさ実施じっしされて宝蔵寺沼ほうぞうじぬまちや地下ちか様子ようすあきらかになりました。

宝蔵寺沼ほうぞうじぬま地下ちかには植物しょくぶつ遺体いたいどろ堆積たいせきした泥炭質でいたんしつからなるふか地下谷ちかたにがあることがしめされました。泥炭層でいたんそうから弱酸性じゃくさんせい腐植酸ふしょくさんはムジナモの生育せいいくてきしていることがかっています。

緊急調査きんきゅうちょうさ結果けっかまえて様々さまざま対策たいさくかんがえられました。井戸いどって井戸水いどみず放水ほうすいすることによって水面すいめん被膜ひまくのぞき、ムジナモをべるウシガエルのオタマジャクシをらすためにライギョなど肉食魚にくしょくぎょ放流ほうりゅうしました。また、金網かなあみかこったほりでムジナモの増殖ぞうしょく実験じっけんかえしました。

宝蔵寺沼ほうぞうじぬまからムジナモが消失しょうしつするまえ救出きゅうしゅつされた宝蔵寺沼ほうぞうじぬまのムジナモは、地元じもと羽生市はにゅうしムジナモ保存会ほぞんかい会員かいいんにより自宅じたく庭先にわさき大切たいせつそだてられ、自生地じせいち一画いっかくへの放流実験ほうりゅうじっけんもちいられました。

金網かなあみかこまれた自生地じせいち一画いっかくで、ムジナモはなつあいだ元気げんき増殖ぞうしょくし、繁茂はんもするようになりました。

羽生市宝蔵寺沼ムジナモ自生水域における環境の変遷(2006~2010)
及びムジナモ水生植物の放流増殖実験
Environmental Changes of the Natural Habitat of Aldrovanda vesiculosa L. at Hozoji Pond, Hanyu City, 2006 ~ 2010, and Planting Experiments of Some Water Plants into the Pond
生命歯学部柴田千晶*
名誉教授小宮 定志**
* Department of Biology. The Nippon Dental University, Fujimi, Chiyoda-ku, Tokyo 102-8/59, JAPAN
* * Professor Emeritus, The Nippon Dental University
日本歯科大学紀要 第40巻:69~101 (2011)

1982ねん発行はっこうされたさいたま郷土きょうどかるたでは「宝蔵寺沼ほうぞうじぬまムジナモくに記念物きねんぶつ」のふだとしてうつくしいムジナモのえがかれています。

ムジナモについてのかるた                                   宝蔵寺沼ムジナモ国の記念物
埼玉県教育委員会
埼玉県子ども会育成連絡協議会

また1997ねん発行はっこうされたふるさと切手きってには、埼玉県さいたまけん羽生市はにゅうしにあり、くに天然記念物てんねんきねんぶつ指定していされているムジナモ自生地じせいちえがかれています。

原画作者:寺井 力三郎(テライ リキサブロウ)

宝蔵寺沼ほうぞうじぬまムジナモ自生地じせいち復元ふくげんする努力どりょくつづいていましたが、年間ねんかんとおしてムジナモが生育せいいくする状況じょうきょうにはなかなかいたらなかったため、1998ねん発行はっこうされた埼玉県さいたまけんはつレッドデータブック植物編れっどでーたぶっくしょくぶつへんではムジナモは「野生絶滅やせいぜつめつ」の判定はんていとなりました。 そののち、2005ねんだい2はん、2011ねんだい3はんでも「ムジナモは野生絶滅やせいぜつめつ」の判定はんていつづきました。

2006ねんには国指定くにしてい40周年しゅうねん記念きねん事業じぎょう羽生市はにゅうしによって開催かいさいされ、ムジナモ自生地じせいち保護ほごしてきた軌跡きせき紹介しょうかいされました。

3.埼玉大学のムジナモ研究と第2回緊急調査の実施 

1990年代ねんだいから、埼玉大学さいたまだいがく形態形成学けいたいけいせいがく松島まつしま研究室けんきゅうしつではムジナモのクローン培養法くろーんばいようほう確立かくりつされ、年間ねんかんとおしてムジナモ研究けんきゅうおこなうことができるようになりました。実験室内じっけんしつない培養ばいようビンで増殖ぞうしょくさせたムジナモをもちいて屋外おくがいでの栽培実験さいばいじっけんおこないました。

ムジナモを屋外おくがい容器ようき様々さまざま水生植物すいせいしょくぶつ一緒いっしょそだてていると、糸状しじょう緑藻りょくそう藍藻らんそう繁茂はんもなどムジナモの生育せいいく影響えいきょうおよぼす要因よういんのほかに、ムジナモに壊滅的かいめつてきなダメージをおよぼす要因よういんがあることがかりました。ながあいだそれがなんなのかからなかったのですが、あるときムジナモの先端部せんたんぶ分裂組織ぶんれつそしき)にくっている大量たいりょうセンチュウつかりました。センチュウはおな容器内ようきないのムジナモに次々つぎつぎ感染かんせんし、その容器ようきのムジナモは短期間たんきかん全滅ぜんめつします。

そして、なつあいだ繁殖はんしょくしていた宝蔵寺沼ほうぞうじぬまのムジナモが春先はるさき展開てんかいできなかった原因げんいんもセンチュウであることがめられたのです。センチュウは化学薬品かがくやくひん使用しようなどによって生物せいぶつバランスくずれた環境かんきょう発生はっせいしやすいこともかりました。

羽生市はにゅうし国指定くにしてい50周年しゅうねんむかえるまでに、なんとか年間ねんかんとおしてムジナモが生育せいいくできる自生地じせいち復元ふくげんしたいとかんがえ、再度さいど緊急調査きんきゅうちょうさ(2009–2013ねん)を実施じっしすることになりました。この緊急調査きんきゅうちょうさには埼玉大学さいたまだいがく研究者けんきゅうしゃ中心ちゅうしんに7つの分野ぶんや総勢そうぜい20名以上めいいじょうくわわり、熱心ねっしん議論ぎろんかさねながら調査ちょうさすすめました。

2009ねんあき緊急調査きんきゅうちょうさ開始時かいしじ宝蔵寺沼ほうぞうじぬま堀割ほりわりには、おびただしいかずのウシガエルのオタマジャクシがおよいでいました。あちこちで大きなコイやフナもおよいでいました。水面すいめん植物しょくぶつ見当みあたらず、植物しょくぶつれると、10数分間すうふんかんですべてべつくされました。

そこで、オタマジャクシやコイからまもるために、はじめはネットでかこい、様々さまざま水生植物すいせいしょくぶつ一緒いっしょにムジナモを放流ほうりゅうしてみました。自生地じせいちみずでムジナモは元気げんき成長せいちょうしましたが、やがてネットでかこわれた環境かんきょうでは、緑藻りょくそうやほかの植物しょくぶつ成長せいちょうによってムジナモの生育せいいくおさえられることがわかり、水生動物すいせいどうぶつ存在そんざい必要ひつようであることにづきました。

ある自生地じせいち一画いっかくにイヌタヌキモがそだっている浅瀬あさせつけました。よくるとイヌタヌキモにざってムジナモがいることがかり、おどろきました。あとからこのムジナモはムジナモ保存会ほぞんかい会長かいちょうさんがためしに放流ほうりゅうしたものだということがかりました。ムジナモをネットでかこまずにじかに放流ほうりゅうしてもそだつことができる、という希望きぼうかんじた瞬間しゅんかんでした。

奈良ならには自生じせいしていたのではなく、導入どうにゅうされたムジナモが繁殖はんしょくしている場所ばしょがあるとおしえてもらいました。ムジナモが生育せいいくできる環境かんきょう参考さんこうにするために何回なんかい見学けんがくきました。

そこは多様たよう生物せいぶつ生息せいそくする自然しぜんゆたかな素晴すばらしい環境かんきょうでした。外来がいらいのオオバナイトタヌキモがあついマットじょう繁茂はんもしており、コイの姿すがたられましたが、ムジナモの繁殖はんしょく長期間ちょうきかんにわたってつづいていました。

2010ねん、宝蔵寺沼の掘割にムジナモをじかに放流ほうりゅうするために、まずんだのはウシガエルのオタマジャクシをらすことです。いろいろとアイデアをい、ウシガエルが卵塊らんかいみつけた直後ちょくご駆除くじょするのが一番いちばん効率こうりつがよいだろうということになり、さっそく実行じっこうしました。ウシガエルのオタマジャクシがると、自生地じせいち堀割ほりわり様々さまざま水生植物すいせいしょくぶつがみられるようになりました。

2009ねんあき直接ちょくせつ放流ほうりゅうしたムジナモは、2010ねんはるに4か所かしょで1〜3ずつ越冬えっとうした冬芽とうが浮上ふじょうしました。2010ねんなつあきに、自生地じせいち堀割ほりわり様々さまざま場所ばしょ直接ちょくせつ放流ほうりゅうすることをみました。

2011ねん1がつ調査員ちょうさいんはない、宝蔵寺沼ほうぞうじぬまでムジナモを増殖ぞうしょくさせるための課題かだいとして以下いか確認かくにんしました。

  1. 浅瀬あさせ造成ぞうせい
  2. 冬芽とうが沼底ぬまぞこでの越冬えっとう
  3. 冠水対策かんすいたいさく
  4. 宝蔵寺沼ほうぞうじぬま生物相せいぶつそうコントロール
    1. ウシガエル卵塊らんかい駆除くじょ継続けいぞく
    2. コイなど大型魚おおがたぎょ対策たいさく
    3. カルガモ対策かるがもたいさく
    4. 多様たよう水生植物すいせいしょくぶつ確保かくほ

そして、多様たよう生物せいぶつがバランスよく生育せいいくできる環境かんきょう目指めざすこととしました。

2011ねんにまずんだのは浅瀬あさせ造成ぞうせいすることです。多様たよう生物せいぶつ生育せいいくする水環境みずかんきょう岸辺きしべからゆるやかな傾斜けいしゃになっています。かつての宝蔵寺沼ほうぞうじぬまんぼが浅瀬あさせ役割やくわりになっていたとかんがえられます。羽生市はにゅうし毎春まいしゅん伝統行事でんとうぎょうじとしてほり底泥そこどろげる「さでかき」をおこなっており、その機会きかい利用りようして陸地化りくちかしていたかつてのほりってもらい、浅瀬あさせ造成ぞうせいしました。この年のはる沼底ぬまぞこ越冬えっとうしたムジナモは60浮上ふじょうしました。そして6がつには越冬えっとうして浮上ふじょうしたムジナモが増殖ぞうしょくしている様子ようす確認かくにんできました。

ところが7がつ集中豪雨しゅうちゅうごうう自生地じせいち冠水かんすいし、水面下すいめんかいているムジナモも流出りゅうしゅつしたとおもわれました。が、水位すいいもどったあとにムジナモをさがしにくと、ヒシやヨシにっかかってのこっているムジナモを80個体こたい以上いじょうつけることができました。

この経験けいけんから、冠水時かんすいじにムジナモの流出りゅうしゅつふせぐために、水路脇すいろわきのヨシやマコモを高さたかさ50cm程度ていど刈残かりのこして、冠水時かんすいじ流出防止柵りゅうしゅつぼうしさくとすることをかんがえました。

2012ねんはる越冬えっとうして浮上ふじょうしたムジナモは30個体こたいでした。5がつ大雨おおあめり、自生地じせいちふたた冠水かんすいし、残存ざんぞんしたムジナモはわずかでした。9がつになるとヒシやヨシ、イヌタヌキモにかこまれてムジナモが増殖ぞうしょくする様子ようすられるようになりました。

2013ねん緊急調査きんきゅうちょうさ最終年さいしゅうねんはる越冬えっとうして浮上ふじょうしたムジナモは370個体こたいになり、7がつには自生地じせいち越冬えっとうしたムジナモが開花かいかしました。

緊急調査きんきゅうちょうさ期間きかん宝蔵寺沼ほうぞうじぬまでたくさんの生物種せいぶつしゅ確認かくにんされました。これらすべてのもの相互そうごかかわりあい、複雑ふくざつなネットワークをつくっています。これら多様たよう生物せいぶつがバランスよく生育せいいくできる環境かんきょう
がムジナモの生育せいいくできる環境かんきょうでもありました。

2014ねんには多様たよう水生植物すいせいしょくぶつ共存きょうそんして繁茂はんもするムジナモがられるようになりました。

2016ねんはる越冬えっとうして浮上ふじょうしたムジナモは13,000個体こたいになりました。自生地じせいち北部ほくぶとくにムジナモの生育せいいく良好りょうこうで、毎年まいとしなつあきおこなっていたムジナモの放流ほうりゅうおこなわない区域くいき設定せっていしました。

なつには自生地じせいち越冬えっとうしたムジナモの開花かいかがたくさんられました。

2016ねん11がつ国天然記念物くにてんねんきねんぶつ指定してい50周年しゅうねん記念展きねんてん開催かいさいされました。宝蔵寺沼ほうぞうじぬまムジナモ自生地じせいちでムジナモが自生じせいしているといえる状況じょうきょうとなっていました。

2017ねん以降いこう宝蔵寺沼ほうぞうじぬまムジナモ自生地じせいち生育せいいくするムジナモすう順調じゅんちょう増加ぞうかし、2019ねんには越冬えっとうして浮上ふじょうしたムジナモは10万個体まんこたいえました。春先はるさきには大量たいりょう冬芽とうが浮上ふじょうする様子ようすられ、初夏しょかからあきにかけてムジナモが水面すいめんおお箇所かしょえました。このかん、ウシガエルのオタマジャクシやアメリカザリガニの駆除くじょつづけてきました。

自生地じせいち台風たいふう大雨おおあめによる冠水かんすいは2ねんに1くらいかえされ、そのたびにムジナモの一部いちぶ流出りゅうしゅつしたのですが、2020ねんには流出りゅうしゅつしたムジナモがあらたな場所ばしょ繁殖はんしょくしている様子ようす確認かくにんできるようになりました。

2021ねんからは毎年まいとし春先はるさきに10万個体まんこたい前後ぜんご越冬えっとうムジナモが浮上ふじょうし、あきにはおよそ100万個体まんこたいのムジナモが繁茂はんもする状態じょうたいつづくようになりました。

多様たよう生物せいぶつがバランスよく生育せいいくする「ムジナモ自生地じせいち」の維持いじ目指めざして、関係者かんけいしゃ努力どりょくつづいています。

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