埼玉大学のムジナモ研究と第2回緊急調査の実施
1990年代から、埼玉大学の形態形成学(松島)研究室ではムジナモのクローン培養法が確立され、年間を通してムジナモ研究を行うことができるようになりました。実験室内の培養ビンで増殖させたムジナモを用いて屋外での栽培実験も行いました。


ムジナモを屋外の容器で様々な水生植物と一緒に育てていると、糸状の緑藻や藍藻の繁茂などムジナモの生育に影響を及ぼす要因のほかに、ムジナモに壊滅的なダメージを及ぼす要因があることが分かりました。長い間それが何なのか分からなかったのですが、ある時ムジナモの先端部(分裂組織)に巣くっている大量のセンチュウが見つかりました。センチュウは同じ容器内のムジナモに次々と感染し、その容器のムジナモは短期間に全滅します。

そして、夏の間繁殖していた宝蔵寺沼のムジナモが春先に展開できなかった原因もセンチュウであることが突き止められたのです。センチュウは化学薬品の使用などによって生物のバランスが崩れた環境で発生しやすいことも分かりました。

羽生市は国指定50周年を迎えるまでに、なんとか年間を通してムジナモが生育できる自生地を復元したいと考え、再度の緊急調査(2009–2013年)を実施することになりました。この緊急調査には埼玉大学の研究者を中心に7つの分野で総勢20名以上が加わり、熱心に議論を重ねながら調査を進めました。


2009年秋、緊急調査開始時の宝蔵寺沼の堀割には、おびただしい数のウシガエルのオタマジャクシが泳いでいました。あちこちで大きなコイやフナも泳いでいました。水面に植物は見当たらず、植物を投げ入れると、10数分間ですべて食べつくされました。

そこで、オタマジャクシやコイから守るために、はじめはネットで囲い、様々な水生植物と一緒にムジナモを放流してみました。自生地の水でムジナモは元気に成長しましたが、やがてネットで囲われた環境では、緑藻やほかの植物の成長によってムジナモの生育が抑えられることがわかり、水生動物の存在も必要であることに気づきました。

ある日、自生地の一画にイヌタヌキモが育っている浅瀬を見つけました。よく見るとイヌタヌキモに混ざってムジナモがいることが分かり、驚きました。あとからこのムジナモはムジナモ保存会の会長さんが試しに放流したものだということが分かりました。ムジナモをネットで囲まずにじかに放流しても育つことができる、という希望を感じた瞬間でした。

奈良には自生していたのではなく、導入されたムジナモが繁殖している場所があると教えてもらいました。ムジナモが生育できる環境を参考にするために何回も見学に行きました。

そこは多様な生物が生息する自然の豊かな素晴らしい環境でした。外来のオオバナイトタヌキモが厚いマット状に繁茂しており、コイの姿も見られましたが、ムジナモの繁殖は長期間にわたって続いていました。

2010年、宝蔵寺沼の掘割にムジナモをじかに放流するために、まず取り組んだのはウシガエルのオタマジャクシを減らすことです。いろいろとアイデアを出し合い、ウシガエルが卵塊を産みつけた直後に駆除するのが一番効率がよいだろうということになり、さっそく実行しました。ウシガエルのオタマジャクシが減ると、自生地堀割に様々な水生植物がみられるようになりました。

2009年秋に直接放流したムジナモは、2010年春に4か所で1〜3個ずつ越冬した冬芽が浮上しました。2010年の夏と秋に、自生地堀割の様々な場所に直接放流することを試みました。

2011年1月、調査員で話し合い、宝蔵寺沼でムジナモを増殖させるための課題として以下を確認しました。
- 浅瀬の造成
- 冬芽の沼底での越冬
- 冠水対策
- 宝蔵寺沼の生物相のコントロール
- ウシガエル卵塊駆除の継続
- コイなど大型魚対策
- カルガモ対策
- 多様な水生植物確保
そして、多様な生物がバランスよく生育できる環境を目指すこととしました。

2011年にまず取り組んだのは浅瀬を造成することです。多様な生物が生育する水環境は岸辺から緩やかな傾斜になっています。かつての宝蔵寺沼は田んぼが浅瀬の役割を担っていたと考えられます。羽生市は毎春伝統行事として堀の底泥を掻き揚げる「さでかき」を行っており、その機会を利用して陸地化していたかつての堀を掘ってもらい、浅瀬を造成しました。この年の春、沼底で越冬したムジナモは60個浮上しました。そして6月には越冬して浮上したムジナモが増殖している様子も確認できました。

ところが7月の集中豪雨で自生地は冠水し、水面下に浮いているムジナモも流出したと思われました。が、水位が戻った後にムジナモを探しに行くと、ヒシやヨシに引っかかって残っているムジナモを80個体以上見つけることができました。
この経験から、冠水時にムジナモの流出を防ぐために、水路脇のヨシやマコモを高さ50cm程度に刈残して、冠水時の流出防止柵とすることを考えました。

2012年春、越冬して浮上したムジナモは30個体でした。5月に大雨が降り、自生地は再び冠水し、残存したムジナモはわずかでした。9月になるとヒシやヨシ、イヌタヌキモに囲まれてムジナモが増殖する様子が見られるようになりました。


2013年緊急調査最終年春、越冬して浮上したムジナモは370個体になり、7月には自生地で越冬したムジナモが開花しました。

緊急調査の期間、宝蔵寺沼でたくさんの生物種が確認されました。これらすべての生き物が相互に関わりあい、複雑なネットワークを作っています。これら多様な生物がバランスよく生育できる環境
がムジナモの生育できる環境でもありました。

2014年には多様な水生植物と共存して繁茂するムジナモが見られるようになりました。


2016年春、越冬して浮上したムジナモは13,000個体になりました。自生地の北部は特にムジナモの生育が良好で、毎年夏と秋に行っていたムジナモの放流を行わない区域を設定しました。

夏には自生地で越冬したムジナモの開花がたくさん見られました。


2016年11月に国天然記念物指定50周年記念展が開催されました。宝蔵寺沼ムジナモ自生地でムジナモが自生しているといえる状況となっていました。

2017年以降、宝蔵寺沼ムジナモ自生地に生育するムジナモ数は順調に増加し、2019年には越冬して浮上したムジナモは10万個体を超えました。春先には大量の冬芽が浮上する様子が見られ、初夏から秋にかけてムジナモが水面を覆う箇所も増えました。この間、ウシガエルのオタマジャクシやアメリカザリガニの駆除は続けてきました。




自生地の台風・大雨による冠水は2年に1度くらい繰り返され、そのたびにムジナモの一部は流出したのですが、2020年には流出したムジナモが新たな場所で繁殖している様子が確認できるようになりました。

2021年からは毎年春先に10万個体前後の越冬ムジナモが浮上し、秋にはおよそ100万個体のムジナモが繁茂する状態が続くようになりました。

多様な生物がバランスよく生育する「ムジナモ自生地」の維持を目指して、関係者の努力は続いています。